闇もどき部屋へようこそ
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カガリはアパートへ戻ってきた。
ーー部屋はあの日の荒らされたまま。この現状に重いため息を吐いた。
片づけをする前に大家さんの所へ挨拶をしに行った。そこで空き巣犯が捕まったことを聞き、カガリは少し安堵した。今日の仕事は昼からとなっていたので、散らかった部屋は行くまでになんとか片付けられそうだった。
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仕事が終わり、バス停でバスを待っていれば、同じ職場の人が話しかけて来た。
「あれバス?」
「あっ‥‥うん」
「歩いて帰ってなかった?」
彼女はカガリがアスランのマンションへ住み始めたころバイトに入った人だった。
カガリはどう説明すればいいのか、それにあまり話したくはない内容だ。だから、「え~とえ~と‥‥」と話が止まった。
彼女は勘が鋭いようで遠慮なしに聞いてきた。
「もしかして同棲でもしてた?けど追い出された的な?」
「まぁ、そっそんな感じ???」
「やはりそうだったんだ。実はね、私もそうだったの。同じだーー」
彼女は嬉しそうに叫んだ。
「同棲したからって上手くいくとは限らないわよね」
カガリは苦笑いを見せた。
「ーー男なんて世の中にいっぱい居るんだから元気だしなさいよ。新しい男を見つければいいだけよ。失恋してウジウジするよりその方が断然いいからね」
カガリが何も言わなくても勝手に話し出した。
「あっありがとう」
「過去の男を忘れるには新しい男を見つけることよ。わかった!」
「あっ、はい‥‥」
「あっ彼氏が迎えに来たみたい。新しい彼なんだウフフ‥‥」
車が近くで止まった。
「兎に角、前を向いて新しい男を見つければいいのよ。何時までも引きずっていても仕方ないでしょう。じゃ、またね」
そう言って駆けて行った。
カガリは彼女の逞しさが少し羨ましく思った。
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<アパート>
ーー後は寝るだけだった。そんな時、ハイネからメールが入った。
『今度二人の休みに合せて会わないか?』と言う内容だった。
カガリは助けてもらったお礼をしないと、と思い仕事の休みの日をハイネに伝え、会うことにした。そしたら直ぐにハイネから返信が入った。
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<二日後の昼下がり>
「今日は休みだったのか?」
自分の休みが平日しかなかったから無理して休みを取ったのか気になりハイネに聞いてみた。
「休みに出社したから今日をその代休にあてた」
「そっか」
「得意先から貰った映画のチケットがあるからそれを観ないか?」
カガリが頷くと、二人は映画を観に行くことにした。
その後、食事に誘われたので、この間助けてもらったお礼としてカガリがおごると言う流れになった。
カガリは食事の席で改めてお礼を言った。そして、食事を終えるとハイネが家まで送ると言いだした。断るつもりだったが、ハイネが断られることをみこしてか、先に言った。
「断るつもりだろうが、今日は遅らせろよな。女の一人歩きは危険な時間だし」
「‥‥‥‥」
カガリはハイネの態度にどこか笑えてきて、そんなに言うなら、とお願いをした。
バス停までのつもりがハイネも乗り込んできたので、一緒にバス停で降りて結局アパートの前まで送ってもらうことになった。
カガリがお礼を言えば、
驚いた顔を見せるカガリにハイネは何か言われる前に唇を塞いだ。
振り払おうとすれば出来たが、カガリはそのままおとなしく目蓋を閉じた。どうしてそうしたかは自分でもわからなかった。
唇を離すとハイネがどこか嬉しそうに言った。
「キスを許したってことは俺との付き合いを考え直してくれたってことか?」
「////あっ、えっと‥‥」
カガリは告白されたことをすっかり忘れていた。だから気まずさもあり俯いて考えた。
ーー今は前に進むと決めたのだから、それこそこういった出会いは大切にした方がいいよな。先程同じ職場の彼女に言われたことを思い返した。しかし、今直ぐ返事はできなかった。
カガリは顔を上げてハイネに言った。
「こ、今度返事するじゃダメかな?」
「‥‥わかった。今のキスで期待は持てた。じゃまた連絡するな」
そう言って、カガリに背を向け帰って行った。
返事を躊躇うカガリに、ハイネは薄々気が付いた。もしかしたらカガリは誰か好きな奴がいるかも知れないと言うことだ。ライバルがいると思うと余計に萌えあがるハイネだった。
カガリはハイネの背中を見送った。そしてハイネが見えなくなると、急に涙が零れそうになったが、夜空を見上げ、明日の天気は晴れかな、とただ意味なしに呟いた。
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<カガリが出て行った夜>
ーー玄関のドアを開ければ、カガリの靴はなくなっていた。‥‥もしかしたら、とバカげたことを少しでも考えた自分を自嘲するかのようにアスランはふっと小さく笑った。
手に持つ荷物をカウンターテーブルの上に置いて、アスランはシャワーを浴びに行った。そこで洗濯機の中に洗濯物が入っていることに気がついた。たぶんカガリが洗濯機を回してから出て行ったのだろうと予想は付くーー。
シャワーを浴びれば、キッチンに足を向けた。そして、冷蔵庫を開ければ、ケーキの箱に何か書かれたメモ用紙が張り付けてあった。ーーケーキの存在に気づいたようだ。
アスランはメモを見ることはなく、ただ水が入ったペットボトルだけを取り出して冷蔵庫のドアを閉めた。
リビングを素通りするかのように寝室の部屋へと向かった。そして、部屋に入ろうとするが、ふと立ち止まり、カガリが使っていた部屋へと足を向け、ドアを開けた。
部屋に入ればベッドに腰を下ろし、ただぼんやりと考え込んだ。
‥‥どうしてカガリのことになると冷静さを見失うのか?何時もの自分ならあり得ないこと。
アスランはカガリに対する感情が初めてづくしで、わけがわからずただ憤りを感じていた。
扉が開いたクローゼットの中にポツンと残されていたドレスをじっと見据えていたが、大きくため息を吐くと立ち上がって自分の部屋へと戻っていった。
アスランは次の日からマンションへは帰らず、会社から程よい距離にあるビジネスホテルでしばらく宿泊することにした。
<そしてビジネスホテル二日目の夜ーー>
やはりモヤモヤが消えず、憂さ晴らしで出かけることにした。そこは会員制の高級バーだ。以前よく行ってたうちの一つだった。
アスランが一人でカウンター席で飲んでいれば、女性たちが遠まきに熱い視線を向けて話しかけるタイミングを見ているようだった。だがそこへ一人の女性が店に入って来るなりいきなりアスランに歩みよると、話しかけた。
「お隣に座ってもよろしいかしらん?」
「どうぞ」
了解を得ると女性はアスランの横に座った。他の女性たちがざわつき出し、突き刺さる視線を女性に向けた。抜け駆けしたなとーー。
女性は飲み物を注文すると、アスランに話しかけた。
「私、最近ここのお店を知ったばかりだからよく知らないのだけど、あなたが噂の男性?」
アスランは苦笑いを浮かべた。
「なんだその話は‥‥」
「あら、違うの?」
「‥‥なら俺がそうだと言ったら信じるのか?」
「そうね。あなたが言うなら信じてみるのも悪くはないわ」
そう答えると女性は小さく笑った。
「ねえ場所を変えて二人でゆっくり話さない。もっとあなたを知りたいわ」
女性はスカートのスリットから細い足を覗かせると、アスランの足に擦り寄せ、艶めかしい顔付きでアスランを見つめた。
アスランは彼女を選び椅子から立ち上がった。他の女性たちは、先を越された!と悔しそうな顔して彼女を睨みつけた。選ばれた女性は優越感に浸りながら堂々とアスランと出て行った。
そして、ホテルへ行くためタクシーを拾った。
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<ホテルの部屋>
「シャワーは後で浴びるわ。早くあなたを感じたいの‥‥」
そう言うと、女性はアスランを誘うように服を脱捨て、裸体でベッドへ腰掛けた。
サバサバした女性に小さく笑みを浮かべると、アスランも全て脱ぎ捨てた。
アスランが近寄ると女性は立ち上がりアスランの首に腕を回した。キスをして欲しくて目を閉じた。だがアスランはキスはせず、彼女の顎に唇を寄せた。そして、彼女を抱き上げるとベッドへ倒れ込んだ。
アスランの片手は乳房に、そして唇が彼女の首筋をなぞりだせば、彼女は甘い声を上げだした。しかし、突然アスランの動きが止まった。
‥‥どう言う訳か、気持ちが乗らず、自身の雄も元気がなかった。──どうしてなのか戸惑った。こんなことは初めての経験だった。
動きが止まったアスランに女性は、「どうしたの?」と問うが、アスランは女性から離れ、黙ってベッドから降りた。そして、脱ぎ捨てた服を手に取れば、身に付け出した。
女性はその様子を見てベッドから起き上がった。。
「ーー抱かずに帰えるの?」
「気分が乗らない」
「もう仕方がないわね。だったら私がしてあげるわ」
女性はベッドから降りるとアスランの前に跪いてズボンのファスナーを下げようとした。
「ーーやめろ」
ぞっとするような低い声に女性は驚きアスランを見上げるが、もう背を向けた姿だった。
アスランは彼女に見向きもせず、ドアへと歩いていった。
女性は立ち上がるとアスランの背中に向けて言った。
「ーーあなたは噂の男性じゃなかったの?ルックスがいいからそうだと思ったのに」
それと身に着けている物が全てブランドだったから疑わなかった。女性はため息を吐くと、諦めてベッドに座り込んだ。
「もういいわ。私はこのまま一人で泊まるから朝食はつけておいてよね」
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アスランは外に出れば、ふと夜空を見上げた。ーー明日も晴れそうだ、とただ意味もなくそう思った。そして、タクシーを拾ってビジネスホテルへと戻っていった。
2023年5月29日 修正済