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secret crescent

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小説「素直になれなくて」21話


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<出張からアスランが帰って来る日>


あの渡されたメモのことが気になり、何度も時計に目を向けた。やはり落ち着かないのだろう、何時もはやらない失敗を今日は何度もやらかしてしまった。その結果、店長に呼び出され、今日は帰れと言われた。

カガリは頭を下げて謝ると、店長に言われた通り帰ることにした。

**

ーー行かない!絶対に行かないからな!と心の中で呟くも、足は勝手に駅へと向かって駆けていた。そして、駅に着くと鞄の中からメモ用紙を出して、場所を確認するカガリだった。

電車に乗ってぼんやりと窓から流れる景色を見ていれば、いつの間にかアスランの会社が見えてきた。今から降りる駅はアスランの会社に近い最寄り駅から一つ過ぎた駅だった。

駅に着いた。

メモに書いてあるように少し歩けば、タワーマンションは直ぐに見つかった。そして、駐車場内を見渡せば、メモに書かいてあったように葉桜となった木が一本あった。カガリはその木の後ろに隠れた。

書かれていた時間(20時)ぴったりにどうにか着いた。

木の後ろに隠れているカガリはため息を吐いた。

ーー私何しているんだろう?それに何時までここに居ればいいんだ?指定と書かれた時間から既に25分は過ぎたぞ。もしかしてこれはエリカさんの悪ふざけだったのかもしれない。

メモに書かれたことを真に受けて来てしまった自分に苦笑いを浮かべた。そして帰ろうと思ったとき、見覚えのある車が駐車場に入って来た。それはアスランの車だった。

そして番号が書かれている場所に車を止めた。木の正面から少しずれた場所だった。

駐車場にある外灯が暗闇から薄っすらと車の中の人影を映し出した。

カガリは心臓が飛び出そうなくらい驚いた光景を目にしてしまった。

それは運転席にアスランが、そして後部座席にはエリカさんの姿があった。ここまでなら秘書のエリカをこのタワーマンションへ送って来たのだろうと思う。だが、後部座席に座るエリカが身体を前にずらし顔をアスランに近づければ、アスランも身体を後ろにひねり顔をエリカに寄せて二人の影が重なった。そうキスをしたのだった。★

カガリは動揺して二人から目を離すことが出来ず、見たくないのに思わず見入ってしまった。余りにもショックが大きすぎて躰が硬直してしまった。

 

キスを交わした二人は車中で何か話している様子が見て取れた。それから少し経つと二人は車から降りてエントランスの方に向かい歩き出した。

 

エリカは笑みを浮かべた顔でカガリが隠れている木の方へ振り向いた。だが直ぐに前を向いてアスランと一緒にマンションの中へと姿を消した。

 

カガリは二人の関係を目の当たりにしてかなり衝撃を受けた。

秘書とそういう関係だったなんてーー。エリカさんは私に忠告したかった。だからあんなメモを渡した。


動揺し崩れそうになる躰をどうにか保ちながら、その場所から逃げ去るように走り出した。

 

**

 

息が続く限り走った。そして、息が切れた所で立ち止まった。カガリは両手を膝に置き荒い息を吐き出しながら呼吸を整えた。

ーー頭の中は真っ白だ。

息が整い顔を上げれば、目の前にある道をただひたすら歩いた。

どれぐらい歩いたのだろうか、突然誰かに名前を呼ばれたような気がして立ち止まった。すると自分の行く手を塞ぐように立ちはだかる人物がいた。

ーー誰だったけ?

見覚えがあるような気がしたが頭の中がもやもやして直ぐには浮かんでこなかった。

 

「見かけたから声掛けたのに。無視かよ」


少しして相手が誰だか思い出したが興味もないし、しゃべる気力もなかったので無視して歩き出そうとした。

 

 「おい、待てよ!」

 

アフメドはどこか怒ったようにカガリの手首を掴んだ。

 

カガリは振り払おうとするが、男の力だからか振り払えなかった。

 

「そんなにツンケンすることないだろう?知らない仲でもないし。久しぶりに会ったんだから話でもしようぜ」

「─────」

「何だよ。無視かよ。まあ、いいや。丁度目の前にホテル(モーテル)もあることだし、そこでゆっくり話そうぜ」

 

カガリはそう言われ漸く気が付いた。ここはどこなんだ?自分がどこにいるのかさえ、全く検討も付かなかった。

 

兎に角、アフメドから逃げようとするが、男の力で強引に引っ張られた。

 

「──離せ!!」

「大丈夫。俺に任せとけって」

 

そう言って、無理矢理カガリをホテルの門の中へ連れ込み、外壁でアフメドがカガリを囲むように両手で壁に手を付いた。所謂、両手の壁ドン。

 

カガリはアフメドを見上げて睨んだ。

 

アフメドはカガリの雰囲気にドキッとさせられた。──見ないうちに綺麗になった。それも女っぽくなった。男の欲望が高鳴る。ゴックンと喉を鳴らせ、少し興奮気味に言葉を告げた。

 

「俺に振られて綺麗になったんじゃないか?」

 

カガリはさっきよりもムッとした表情を浮かべ、睨んだままだ。

 

「・・・女とは別れた。だから、俺たちもう一度やり直さないか?」

 

そう言って、アフメドはキスをしようと迫った。

 

カガリはアフメドの股間に思いっきり膝蹴りを入れた。

アフメドは強烈な痛みに耐えきれず、カガリから離れて前かがみになり抱え込んだ。

カガリはその隙に逃げ出したが、諦めが悪いアフメドは後ろを追ってきた。

 

──コケにされたまま、逃がしてなるものか!とその勢いでアフメドは逃げるカガリを追いかけた。

 

知らない場所を逃げ切るには無理があった。無我夢中で走る先は、行き止まりの路地だった。

 

息を切らせながらカガリに追いついたアフメドが言う。

 

「もう鬼ごっこは終わりだ」

 

カガリはアフメドの横を通り抜けようと駆け出したが、アフメドに腕を取られきつく抱きしめられた。

 

「俺たち、もう一度やり直そう」

 

アフメドは顔を寄せキスを迫った。

 

カガリは全身全霊で拒んだ。近寄る唇に嫌悪感を抱き、必死に顔を背くが逃げられない。

 

──嫌だ、ともがくカガリが助けを求めて脳裏に浮かんだ相手は、アスランだった。

 

 

 

 2023年5月13日 修正済


 

※ ★は特別編として後ほど公開いたしましたが、今回は検討中といたします。(2023、5/13)


 

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