闇もどき部屋へようこそ
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季節の変わり目の時期だからか、アスランはとても忙しそうだった。ただ前のように深夜を過ぎることは少なく大体22時ぐらいには帰って来ていた。しかし、朝はほぼ毎日早い時間に家を出て行った。
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ある日の夜ーー。
アスランは食事を終えると、カガリと一緒に食器を洗い、そして、お片付けをする。
カガリはキッチンの片づけが終わるとアスランに言った。
「今忙しいだろう。私一人でやるからいいぞ」
「まあ無理な時は任せる」
アスランは心配そうな顔して自分を見つめるカガリに言った。
「大丈夫だからそんな顔するな。忙しいのは慣れている。ただ当分カガリを抱けそうにはないけどな。今の仕事が一段落付いたら、まとめてやるから覚悟しとけよ・・・」
揶揄しながらそう伝えると、アスランはカガリの頭を手で軽くポンポンとして、自分の部屋へと行ってしまった。また仕事をはじめたようだった。
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──朝、カガリが起きた頃には既にアスランの姿は無かった。
本人は大丈夫と言ってはいるが本当に大丈夫なんだろうか?睡眠は明らかに足りてないよな、とやはり考えてしまう。
カガリは小さく息を吐くと仕事へ行くための準備を始めた。
朝食を食べて、身支度を整えて、後は出るだけとなった。しかし、仕事へ行くにはまだまだ時間が早かった。だからソファに座り何気に携帯を見ていた。すると突然携帯が鳴り、電話の着信を知らせた。
ーーびっくりした!朝から誰だ?
驚きながら電話の相手の名前を見れば
『もしもし‥‥』とどこか緊張した面持ちで出た。
ーー話は忘れ物を至急会社へ届けて欲しいと言った内容だった。
アスランは珍しく部屋に忘れ物をしたらしい。取りに帰るには時間がないから忘れ物を受付けに渡しといて欲しいと言われたった。
『・・・ちょっと待て、家に忘れた物を私が持って会社の受付けに渡したらやばいだろう?』
『どうしてだ?』と逆にアスランに問われ、言葉を失うカガリだった。
『だから私が家に忘れた物を持って受付に渡したら不思議に思われだろう』
ーーそんなことをしたら一緒に住んでいることがバレてしまうんじゃないのか?もしバレた場合はどう答えればいいのか、と聞いてみた。
『もし一緒に住んでいることがバレたら私はなんて答えればいいんだ?』
だがアスランは人の話を聞いてなかったのか、
『兎に角出来るだけ早く持ってきてくれーー』と一方的に言われ電話が切れた。
仕方がないのでアスランの部屋を見に行くことにした。ドアを開ければ床の上に書類が挟まったクリアファイルが落ちていた。
アスランが言ってたクリアファイルはこのことだろうな、と思いそれを拾い上げた。
結局、カガリはアスランの会社へ忘れ物を届ける羽目となった。
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会社の前に着いた。改めて会社を見上げれば大きな(高い)ビルだった。
ここまで来るのに電車でも意外と遠かった。アスランは車通勤だと思うけど渋滞とかを考えればかなり時間がかかるんじゃないかと思った。だから忘れ物を取りに帰れず、私に頼んだと言うことは何となくわかった。
ーーなんで会社に近いマンションに住まなかったのだろうか、とふとそんなことを考えた。
大きく深呼吸をしてから警備員が立つ前を通って自動ドアの扉を通り抜け、受付に向かって歩いた。
一階のロビーの半分ぐらいまでは一般の人でも入れるようになっているようだが、その先へ行くには首から掛けたカードらしき物を何らかの機械にかざさなければ通行できないシステムになっているようだ。
受付には、髪をツインテールした可愛い女性とショートヘアーが似合う美人タイプの女性が座っていた。ショートヘアーの女性は用事があるのかその場を任せて席を外した。残ったその一人がカガリを応対した。名札には、メイリンと書かれていた。(※年齢はカガリと同じ21才)
カガリは受付の前に来たのはよいが何て言えば良いのか口篭った。そんなカガリに受付のメイリンがスマイルで話しかけた。
「おはようございます。ご用件をお伺いいたします」
カガリはここへ来るまでの間に理由を色々と考えていた。このクリアファイルを拾ったことにしようかと、だがそうなるとアスランの責任問題になるかもと思いやめた。そして、迷った挙句、アスランを呼び出してもらうことにした。
「えっと、あの、アス・・・じゃなくて、副社長を呼んでいただけませんか、お願いします」
さっきまで笑顔を浮かべていたメイリンの顔は一変した。カガリを疑わしい目で見て、声のトーンも幾分か下がった。
「どちら様でしょうか?失礼ですけどアポイントメントはあるのでしょうか?」
「えっと‥‥えっと‥‥」
「なければお帰りください」
口篭ってあたふたしていれば、向うから近寄って来るアスランの姿が見えた。カガリはホッとした。
メイリンは目の前に来たアスランに頬を赤らめ嬉しそうに笑みを浮かべ、可愛くおじぎをして挨拶をした。
アスランも軽く促し、カガリに声をかけた。
「遅い。何してたんだ?」
「何だよ。急いで持ってきてやったのに。私だって仕事があるんだからな!」
メイリンは二人の会話を耳にして、きょとんとした顔を見せた。
カガリはアスランの態度に少し不貞腐れながら、手提げ袋からクリアファイルを出して手渡した。
アスランはそれを受け取るとクリアファイルの中身を確認し安堵の表情を浮かべた。だが焦っていたとは言え、カガリにお礼も言わず強い口調で話しかけたことに気不味さを感じたのか、アスランはカガリの手首を掴むと、近くにある会議室へと連れていった。
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<会議室(待合室)>
カガリは頬を膨らませ、怒った素振りを見せていた。
「さっきは俺が悪かった」
そう言うとアスランはいきなりキスをした。
カガリは突然すぎて固まってしまった。そして、顔が瞬時に赤くなると、両手で唇を隠すように押さえ狼狽する。
そんなカガリを余所に、アスランは無言のまま会議室から出てエレベーターに乗った。そして、廊下を歩きながら、どうしてキスをしたのかと自分の行動に動揺していた。
不思議とこう言う場面に出くわす男、同僚かつ親友のキラだ。
「ねえ、さっきの彼女誰?」
「・・・・・・・・・!?」
「名前を聞いているんじゃなくて、君とはどう言う関係って聞いてるの」
そう問われ、アスランは顔を顰めた。どう言う関係?と問われ、カガリは・・・。
何も答えないアスランに対してキラは、「はっきりしたら教えてね」と相変わらず人を茶化すような笑みを浮かべ、「じゃあね~」と言って行ってしまった。
アスランはふと通路から見えるロビーへと視線を向けた。すればカガリの姿が見えた。
──今から仕事があるとか言って俺には怒っていた。なのにエントランスの入口で男と楽しそうに会話する姿が見えた。そのカガリの姿に無性に腹が立ってきた。前にも一度こんなことがあった気がした。
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カガリは仕事でこの会社に来ていたと言う知り合いの男性にお茶を誘われた。
ーー時計を確認する。電車で戻ってもまだ時間はある。それにすっかり忘れていたが、今日は他のパートさんに頼まれて、遅めの時間からだったことを思い出した。
カガリも久々だったから話がしたかった。そして、カガリと男性は仲良さそうに肩を並べて一緒に歩きだした。
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アスランは二人の行動を上から目で追って見ている自分にも苛立った。こんなことに時間を費やして俺は何をしている?カガリが誰といようが俺には関係ない!と思いつつも、頭の片隅で気になった。先程キラに問われた言葉が頭の中を過ぎる。『どう言う関係?』
──愛人以外に何があると言うのか?アスランは大きく息を吐いて、会議室へと向かった。