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secret crescent

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小説「素直になれなくて」18話


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メイリンはエントランスで話すあの彼女と男性の姿を見て、絶対に何かある!と言う直感が働いた。

副社長とあの彼女の関係が気になるメイリンは、もし面白い情報が手に入ればーー、と小さく口元を上げた。

そこにタイミング良く戻って来たもう一人の受付の彼女に言った。
「なんだか急に体調が悪くなったから少し休んできたいの‥‥」
「えっ?どうみても元気そうだけど?」
顔の前で手を合わせて言う。
「お願い、今度おごるから、私が帰って来るまでなんとか誤魔化しておいてーー」

そう言うとメイリンは急いで二人の後を追った。

**


<喫茶店> 

メイリンは気づかれないように二人が座る真後ろの席に座り、二人の会話に耳を傾けた。

 
彼女の名前はカガリーー。そして、一緒にいる男性の名前はハイネ、年齢は凡そ25,6歳ってところね。

 「すごい偶然だけどここには出張で来たのか?」

「少し前に転勤になってこの地区の担当になったんだ。カガリはどうしてあの会社にいたんだ?もしかしてあそこで働いているとか?」
「えっとちょっと届け物があって来ただけなんだ」
「へぇそうなんだ。今はどうしているんだ?あっいや、答えたくないなら答えなくてもいいからな」

相変わらず優しいな、と思いながら言った。

「今は弁当屋さんで働いてる」
「そうか」
「ハイネは仕事であの会社に来たってこと?」
「ああ、今日は営業のあいさつ回りだけだけどな」

 

ハイネはそう言いながら名刺を差し出した。カガリはそれを手に取り言った。

 

「ミネルバ保険会社の営業なんだ」

「いやまあ、それもあるが。俺、あの頃より出世したんだぜ」

 

ハイネはさり気にそれを自慢したくて名刺を差し出したのだが、カガリは案の定とでも言おうか、全然気が付いてくれなかった。

 

カガリは改めて名刺を見てみる。そこには、係長とあった。

 

「凄いな、もう係長なんだ」

「だろう。この若さで係長だぜ」

「ハイネって人付き合いが上手いし、営業に向いているよな」

「まあな。それより俺、保険会社の営業って、カガリに言わなかったか?営業だから得意先の接待で、あの店を使わせてもらっていたんだが・・・」

「そうだったか?ごめん。全然覚えてなかった・・・」

 

カガリは店に来た客のことなど全然興味がなかったので職業など覚える気がなかった。

 

「‥‥けど、俺、自分でカガリに、キャバクラは辞めろ!と言っておいて、急に辞めて居なくなったと知った時には少し寂しかったな」

「他の客と違って、ハイネは優しかったもんな~。『・・・辞めろ!』って本気で叱って言う客なんていなかったし」

「だろうな・・・」

 

新人のカガリは従業員ともよくトラブっていて、客の俺から見ていてもハラハラした。カガリの性格なんだろうが、疑うことが先ず苦手というか、出来ないタイプ。それでもって、何でも真っ直ぐ物事を言ってしまうし、なにより嘘が付けない性格がまた痛かった。これでは先ずこの業界(キャバクラ)でやって行くにはきついような気がした。ついほっとけなくて、余計なことだと分かってはいたが、『辞めろ!』と説教するかのように言ってしまった。

 

「ありがとうな。ハイネには色々と勇気づけられた。だから辞めることも出来た」

「改まって言われると、何だか照れるな~」

 

そう言ってハイネは、少し照れた笑みを浮かべた。

 

「今だから言えるけど、私、ハイネが店に来るのが待ち遠しかったんだぞ~」

「俺をか?」

「うん!」

 

そう言って微笑むカガリに、ハイネの胸はドキッと跳ね上がった。こんな感覚は久々だ。そうまだ真面目な少年期だった頃に味わった感覚だった。

 

カガリってこんなにイイ女だったか?知り合った頃は、サバサバして色気もなくて、どちらかというと男っぽいような性格だったが、今はどうだ。女の色香を漂わせ、男心をくすぐる雰囲気が漂っている。こうも変わるものかと言うぐらいカガリは変わっていた。

 

ハイネはカガリの事が気になり出した。このまま別れてしまうにはもったいない。そう思ったハイネはカガリに、「メールの交換をしないか?」と何気なしに言った。カガリは案の定、「別にいいぞ!」と言って交換に応じた。

 

昔と変わらない性格がカガリらしいと言うか、可愛く思えるハイネ。取りあえず、カガリとは連絡を取り合える仲になった。これから先の事はボチボチと考えるとして、今日はこれで別れることにした。ハイネも社に戻らないといけないし、カガリもそうだろうと思った。

 

そして、ハイネが見送る中、カガリはハイネに手を振り別れ、仕事先へと向かった。

 

カガリって、もろ俺好みの女になったんじゃないのか。そう思ったら男(ハイネ)の下半身は素直だ。やばいな~。女には不自由してなかったはずだが・・・。俺を本気にさせる女なんてそうそういないぞ。もしかして、俺が社会人になってからは初めてじゃないか・・・。俺って、営業で回るうち、知り合いが増えて、相当モテたから遊んでばかりで、マジになったことなんてなかったよな~。久しぶりの恋愛も悪くはないか。よっしゃ─、マジで恋愛してやろうじゃないか!俺も26だし・・・いや誕生日がくれば27だ。この先の出世も考えれば、結婚も視野に考えて、本腰入れてカガリと付き合うのも悪くないか~。

 

そう結論付けて考えた自分が恥ずかしいのか、誤魔化すために頭を掻いた。そして、ハイネはこれからの楽しみを考えて、会社へと向かった。

 

**

 

メイリンは自ら副社長室へ電話を入れた。電話を受け取る秘書には適当に言って誤魔化し、直接アスランと電話で話をすることが出来た。『朝、副社長に届けに来た女性のことでお話があります』と告げたが、『だから・・・』と冷めた対応で、思っていたよりアスランが無反応だったので、慌ててこう付け足した。『えっと、あの、その女性が昔どこで働いていたかご存知ですか?そっ、それとさっきここへ営業で来ていた男性との関係を、私、偶然聞いちゃいまして・・・』と、ちょっとちぐはぐな言い回しになってしまったが、そう伝えた。呆れてしまったのか、無言のまま電話が切れた。駄目だったかと落胆していたメイリンに、数分後、アスランから直接メイリンに電話が入った。そして、アスランが時間と店を伝えてきた。メイリンは大喜びして、仕事が終わったら、化粧と服装をチェックして、急いでそのお店へと向かった。

 

息を切らせ店に入れば、奥のテーブルの椅子に腰掛け、座っている姿が目に飛び込んできた。これは夢じゃない!憧れの副社長が私を待っている。メイリンは、手で髪を整え、アスランの元へ近寄って行った。

 

今、憧れの副社長とテーブルを挟んで、メイリンは向き合っていた。心臓がドキドキして嬉しさが止まらない感じだった。

 

「それで、君の知っている話とは?」

 

嬉しさで、ぼーとアスランを見つめるメイリンは、アスランに問われ、思い出したように、話し出した。

 

 

「──彼女は昔キャバクラで働いていたようです。それであの男性と知り合ったようです」

メイリンは立ち話をしていた二人の会話が偶然、聞こえてきたと話した。

 

「‥‥カガリさんとおっしゃる女性はその男性が好きだったようですね。あっ、男性の名前はハイネさんと言うみたいですよ。仲良さそうに互いに呼び合っているのが聞こえてきました。男性の方もカガリさんに気がある感じに見えました。あっだったら、二人は相思相愛ってことになりますよね。羨ましいです」

 

メイリンは頬を染め熱い視線を向けながら、「私もそう言う相手が欲しいな~と思っちゃいます。もしそれが副社長だったらどんなに嬉しいことか・・・」と少し気持ちを伝えるように言った。そして、恥ずかしいのか俯いて可愛い仕草でドリンクに入ったストローを指で摘み氷を回した。

 

アスランは平然とした態度で聞いてはいたが、会社で見たあの光景より益々面白くない気分になった。だがどうしてカガリのことでこうも苛つくのか、自分にとって不解決だった。

 

アスランは自分(メイリン)の事を話し出すメイリンを残してさっさと帰えろうと、レシートに手を伸ばした。メイリンもさり気に手を伸ばし、アスランの手の甲の上に重ねた。

 

メイリンは可愛く上目遣いでアスランを見つめる。

「あっ、すみません」と恥ずかしそうに手を引っ込めた。メイリンは何かリアクションがあるかと期待を胸に待つが、アスランは何も変わらず、「先に失礼する。ここは支払っておく」そう言い、店を出ていった。

メイリンは窓ガラスに張り付き、帰ってく後ろ姿を見送った。

 

 メイリンから色々と話を聞かされ、平静を装う自分がいた。カガリはただの愛人だ。それ以上は何もないはず。だが、どうして苛立つ?同居させる代わりの条件にカガリも愛人関係に諸諾した。唯それだけだ。そう理解していたはず。なのに感情の起伏が自分でも抑えきれないほど波立つ。この感情をコントロール出来ない自分が不思議で、兎に角、非常に面白くなかった。

 

大きく溜め息を吐いて、アスランは自宅のマンションとは違う方角へと車を走らせた。

 

 

2023年4月29日 修正済




次回からは色々とあります。ご注意くださいませ(滝



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