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secret crescent

闇もどき部屋へようこそ

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小説「素直になれなくて」5話


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アスランにはああいったが、まだアフメドには連絡が付いておらず、どうしようかと悩んでいた。

ーー今日出張から帰るはず。

とりあえずカガリは彼が住む最寄りの駅の近くの茶店で時間を潰して待つことにした。

 

茶店の窓際の席に座り、携帯を机の上に置いて、『何時ごろこっちへ帰ってくる?』と問い合わせのメールを入れてアフメドからの連絡を待つが中々返事が返ってこなかった。なけなしのお金を払って注文したオレンジジュースを飲みなが、眠たさと戦いぼーと窓から外を歩く人並みを見ていた。するとカガリの目の前をアフメドが歩いて行った。それも知らない女性と一緒だ。仲睦まじく腕を組んで歩く姿はまるで恋人同士のようだった。

カガリはテーブルに両手を付いてその場で立ち上がった。眠たさは一瞬で吹き飛んだ。
──どう言う事だ!?出張から帰って来たんだよな?‥‥なら一緒にいる女性は誰なんだ?
頭が混乱するカガリは急いで店を出ると、アフメドの後を思わず追った。

 

アフメドからは実家で親と住んでいると聞かされていた。だが彼は3階建てのアパートの2階の通路を歩き、真ん中辺りの玄関前で止まると一緒にいた女性と部屋の中に姿を消した。

一体どうなっているんだ?

動揺したカガリはアフメドが入った部屋の玄関前に来た。そこには彼の名前が書かれていた。カガリは訳が分からないと更に頭が混乱するが、まだ心のどこかで信じたいと言う気持ちもあった。


確かめようと、チャイムを鳴らそうとしたとき、下から上がってくる誰かの足音がした。
カガリはとりあえず姿が見えない所へ移動して様子を窺った。
その足音はこっちへ向かって来た。そして、その人物はアフメドが居る玄関前で止まり、チャイムを鳴らした。
すると中にいる人物が出てきて何かを話すと、部屋の中にいる彼女に何か声を掛けて、その訪ねて来た友達らしき人物と一緒に下の庭へ下りて行った。

玄関から出て来た人物はやはりアフメドだった。カガリはバレないように二人の後を追って二人の会話に耳を傾けた。

 

「ほい、頼まれていたお土産!」

 

友達が手にしていた物をアフメドに手渡した。

 

「サンキュー」

「けどおまえいいのかよ。本命の彼女にバレたらヤバイぞ!」

「大丈夫。俺、ちゃんと本命の彼女には奉仕してるから。けどこの間はやばかったな。セカンドの女とデートする日に本命の彼女がうちに来ちゃあてさ~。それも抱いていいよ的なオーラ出しててよ。だから抱いて、そのあとに仕事の呼び出しがあったからと嘘ついて出かけてさ~。それでセカンドの女が待っている場所まで猛ダッシュ。けど2時間待たせたけど、仕事って言ったら納得してさ。あの女が単純でよかったよ」

「おまえ、悪だな」

「そんなこと言ったら、女紹介しないぞ」

「ごめん。許して」

「セカンドの女だけど。俺の思惑通りでさ~。これが男とデートもしたことがなくて。キスは俺が初めてだったんだとよ」

「ひえ~、マジ?だったら、お前が初めての男になるわけだ」

「そうなるな。この後、本命の彼女を送ったら、セカンドの女の所へ、出張から帰ったと連絡を入れて、このお土産を持って女の部屋へ行く。今夜は萌えるぜ!」

「羨ましいな~」

「後でお前にも回してやるから。あいつ、単純だからちょっと優しくしてやれば、コロっと落ちるし。俺ら3人でプレーするのも悪くないし、楽しみにしていろな」

「・・・アフメド。おまえ遊び人だな~」

 

 

カガリはアフメドの背後から近寄り声を掛けた。振り向き驚くアフメドに手に持っていたバケツの水をぶっかけた。

 

「バイバイ」と怒りに震えた低い声で伝え、踵を返し走り去った。

──私はアフメドの何を知っていたんだろう?告白され、浮かれていた自分に腹が立った。

 

カガリは悔しくて泣きそうになるが堪えて、自分のアパートへ戻ってきた。玄関の中に入るなり我慢していた涙が頬を伝って流れた。だが不意に人の気配を感じて目を凝らし部屋の中を覗いた。夕日が沈み部屋は薄暗いが誰かいる。空き巣犯だろうか、こそこそ動く姿が見えた。

驚愕するカガリは自分の手で口を塞ぎ、出そうになる声を殺した。相手は物色(下着類)に夢中になっているせいか、カガリが帰って来たことに気が付いてない様子だった。カガリはガクガクと震える足で後退りして玄関を飛び出した。カガリはアフメドの事で気が動転していて鍵が開いていることに気が付かなかった。

 
また警察に届けないと、と思いつつも、もう疲れはて何も考えられなかった。頭が痺れてぼーとしながら歩いていれば、昨日と同じ歩道橋に来ていた。


──私はこれからどうすればいいんだ?唇を噛み締め溢れそうになる涙を堪えた。

カガリは歩道橋の真ん中で立ち尽くし、両手で柵を強く握りしめ、頭は項垂れていた。

 **


闇に包まれた時間帯。
昨日と同じ歩道橋。──俺を舐めているのか?アスランは大きく溜め息を吐いた。どうして俺からわざわざ声を掛けないといけないんだ。そう思いつつも結局、見て見ぬ振りが出来ず、アスランは声を掛けた。

 

カガリは昨日出会った時よりも更に憔悴しきって見えた。俺を見ても表情は変わらず、何も話さなかった。何があったか分からないが、ただ必死に涙を堪える姿だけは分かった。

 

車を走らせながら、アスランは思った。ーー俺はいつからお人好しになったんだ。
信号で止まるとアスランは、助手席で力なく項垂れて座るカガリにちらっと視線を向けた。

ーー近寄ってくる女と何が違う?ーー女はみんな同じだろう。
そう思っていた。だが彼女はアスランの心をくすぐった。

アスランは何となくこの道を通れば、また歩道橋にカガリの姿があるような確信に似た何かがあった。それはどうしてか、本人も分からず不解決のままだ。

 

**

 

<マンション>

憔悴しきったカガリは昨日とは違い自らアスランを誘った。

 

アスランと結婚すれば住む場所はある。単純と言おうか浅はかな考えだ。けれどもうカガリにはこれしかないと思った。そう思えるほど心が折れて、疲れきってしまった。

 

カガリはリビングで、いきなり服を脱ぎ始めた。
脱いだ服は床に落とし、そして最後に残ったショーツに手をかけると躊躇わず脱ぎ捨てた。
今日は手で隠すこともせず、アスランの前で一糸纏わぬ姿を見せた。

視線を下に向けて突っ立っていれば、アスランがカガリに歩み寄った。


「そんな女は抱く気がしない」

 そう突っぱねられ、裸で立っているカガリの肩に自分の着ていたジャケットを羽織らせた。

 「昨日の部屋を使えばいい。早く寝ろ」

 

そう言うとアスランは自分の部屋へと行ってしまった。昨日とは別人かと思うぐらいアスランの性格が違ってみえた。

 

 カガリの躰は崩れるようにその場でしゃがみ込んだ。そして、嗚咽を漏らして泣き出した。色んな事がありすぎてぐちゃぐちゃだった。兎に角、今は泣くだけ泣いた。

 **

 

<ゲストルーム>

 

昨日、寝られなかった分、ベッドに入ると疲れた躰は睡眠を欲しがり、直ぐに深い眠りに付いた。

 

**

 

次の朝。

 

カガリは朝日が昇る前には目が覚めた。
いっぱい泣いて、ぐっすり寝たせいだろう、気持ちがスッキリした。

悪いと思いながら勝手に洗面所を使わせてもらい、顔を洗った。勿論自分が持っていたハンカチで顔は拭いた。

カガリはリビングのソファーに座らせてもらった。そして、アスランのことを考えた。

アスランは私の考えを見透かしたに違いない。だから呆れて怒った。

カガリは自分の馬鹿げた行為を恥じた。

昨日のアスランの態度は紳士だった。傲慢なところはあるが、あれが彼の本来の姿に違いない、本当はいいやつなんだ、とカガリは彼を見直した。

 

 

 2023、3、9 修正済




さて、問題です。アスランは白でしょうか、黒でしょうか、さあ、どちらでしょう?(笑

 


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